持ち家信仰

多くの日本人はリタイア時の最大資産は不動産である。金融資産がほとんどなく老後を迎えてしまう。老齢世帯の平均月額支出額は25万円。今後、老齢年金だけでは暮らしていけない人が増えていく。不動産を売却しての換金では老後生活資金への対応が苦しいことに日本人の多くは気づいていない。

HOME‘Sの調査によると日本人のマンション購入年齢は35歳。戸建は36歳。子供が生まれて(あるいは育ってきて)それまでの賃貸住居や社宅が手狭になった時というのが最も多いようだ。

より広いところに引っ越すと当然ながら家賃が大きく上昇する。それを何十年も支払うことを想像した時に心が挫ける。

「月に20万。20年で4800万円・・・うん? 家が買えるな・・」。

「家賃を支払い続けても自分のものにはならない。だから、同じ支払なら住宅ローンのほうが良い。」という考えで住宅展示場に行ってしまう。すると、夢をかきたてるモデルルーム、物腰が柔らかく温かい笑顔のセールスマンと人の心理を研究し尽くしたセールストーク、楽観的なローン返済シミュレーション表が待ち構えている。

住宅を購入して数年間、物件には色々な問題点が見つかってくる。想定以上の「痛勤ラッシュ」、校区の公立校の教育荒廃問題、自動車で外出したときの道路渋滞、建て付けの悪さ、隣人との問題など。しかし、せっかく頑張って買ったのだからと我慢し、少々の問題点は呑み込もうとする心理が強く作用する。

その後直面するのは教育費の負担である。2006年の国民生活金融公庫の「教育費負担の実態調査」を見ると、高校入学から大学卒業までの7年間にかかる費用は、子供一人あたり1044.6万円。2年違いの子供二人の場合、9年間で2100万円を負担することになる。住宅ローンを払っているのに、さらに平均月20万円の教育費負担がのしかかる。ほとんどのサラリーマンにとっては家を買う時点にこのことを想定していない。

子供のすねかじりから解放される頃には、老親の寝たきりとか認知症、特別介護老人ホームの負担が襲ってくる年齢になっている。リストラや独立の失敗などで、40代から50代に収入が乏しい人は非常に苦しい思いをすることになる。
賃貸住まいなら収入が減った際により狭く古くて安価な物件への住み替えが可能だが、持ち家居住者は不動産インフレがない限り高値売却できない。結果、ローン支払から逃れられなくなる。持ち家購入で失う最大のものは家計のリスク対応力なのだ。

日本は欧米先進国と比べると突出して自殺率が高い。WHOの統計によると日本は世界101国中リトアニアなどの政情不安国に次いで9位である。また、中高年の自殺率がこんなに高いのは例を見ない。その大きな原因は持ち家信仰にあるのではないか。

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