定期保険5

定期保険4において、「三利源」「四利源」という話をしました。

その中で、保険契約の締結や維持に関するコストという予定費用という話がありました。
予定費用というのは、保険会社の経営方針によって大きな差が出るはずのものです。

かつて大蔵省の時代の規制行政下では、予定費用も管理されていて、「当社はコストダウンしていますから、保険料を安くできます。」あるいは、「配当金を多く支払うことができます。」という論理が許されていませんでした。各生命保険会社の保険料はほとんど変わらなかったのです。「どこの保険会社に加入しても同じ」にして、安定した業界を維持しようという方針だったのです。

これには、生命保険会社の特質がかかわってきます。長期的な保険金支払に備えるために責任準備金という積み立てを行うのですが、最大手の日本生命だと平成19年9月30日現在、42兆3千億円に達します。そして、会社の自己資産等も含めた総資産は51兆円。このうちの36兆6千億円が有価証券として運用されています。さらにそのうち13兆円が国債・地方債、株式が11兆円です。

財務省から見れば日本生命を始めとする保険業界は国債・地方債の重要な引き受け先です。何かの理由で動揺して、国債を大量に売却すると財務省は非常に困ることになります。また、日本生命1社ですら株式市場を大暴落させるのに充分な株式保有高です。ですから、生命保険業界の安定を維持することはとても重要なことなのです。

ただ、「どこの生命保険会社に加入しても同じになるように業界を規制する」とか、「外資の参入を拒む」というような考え方は大蔵省が財務省と金融監督庁(現在の金融庁)に分けられてから(霞ヶ関の本庁は分割されても、地方財務局は分かれていなかったりします)、少しずつ変わってきました。でも、小渕内閣時に大量発行された10年国債が償還ピークを間もなく迎える(「2008年問題」)ので、国債の円滑な引き受けのために財務省担当局はピリピリしているに違いありません。

次に、予定利率です。
予定利率は世の中の長期金利につれて変化します。予定利率を高く設定すると、保険料は安くなります。低く設定すると保険料は高くなります。その度合いは貯蓄性の保険において高く、掛け捨ての保険において低くなります。昭和の終わりごろの貯蓄性保険契約(養老保険、終身保険、年金保険)の予定利率の高さは絶頂となり、定期預金とかワリチョーなどよりもずっと有利な貯蓄手段となりました。基本的に養老保険をベースにして保険設計を行っている郵便局(今はJP)も簡易保険の限度額(被保険者ひとりあたり、1000万円まで)いっぱいまで養老保険などを売りまくりました。

予定利率を設定しても、会社としての実際の資産運用利回りには従わなければなりません。全契約平均の予定利率よりも高い利回りで資産運用ができた場合には会社に利益が残ります。これを「純ザヤ」と言います。その逆の場合は、「逆ざや」と呼ばれます。

バブル崩壊後に、大きな逆ざやが生じた、日産生命、東邦生命、千代田生命、協栄生命、第百生命、大正生命、東京生命が破綻しました。契約者たちの中には契約時に約束された解約返戻金や満期保険金、解約返戻金を満額は受け取れない人も生じました。

定期保険4

定期保険の説明から確率論の話となり、有配当保険と免責条項で、たくさん述べてしまいました。定期保険4においては、再び保険契約の基本的な数理に話を戻します。
定期保険1において、保険契約は死亡保険金1000万円で死亡率1%だと保険料10万円という期待値の話をしました。

でも、そんなに単純じゃないよ、ということで
・ 保険会社にも利益が必要
・ 保険契約のためのコストがある
・ 1年間だけの保険だけでなく、5年契約、10年契約、20年契約などあり
・ 長い期間だと途中で死亡率が上昇していく。それでも保険料を一定にするためには。
・ 掛け捨ての保険だけでなく、貯蓄性のある保険もある。金利も考えないと・・
というような要因を挙げました。

これらについて、生命保険契約の「三利源」「四利源」の話をしたいと思います。
保険契約を設計するためには以下の数値を使います。
・ 基本的な確率
・ 契約締結、契約維持のための費用
・ 金利
・ 解約率

これらを設定して保険数理人(アクチュアリ)が保険料を計算します。
死亡率というのは厚生労働省の人口問題研究所が統計調査を続けており、生命表というものを発表しています

平成18年簡易生命表

 

男性

女性

年齢

生存数

死亡数

死亡率

平均余命

生存数

死亡数

死亡率

平均余命

0

100,000

388

0.00388

79.00

100,000

339

0.00339

85.81

5

99,612

57

0.00057

74.30

99,661

45

0.00045

81.10

10

99,555

58

0.00058

69.34

99,616

38

0.00038

76.13

15

99,497

180

0.00181

64.38

99,578

89

0.00089

71.16

20

99,317

291

0.00293

59.49

99,489

143

0.00144

66.22

25

99,026

326

0.00329

54.66

99,346

168

0.00169

61.31

30

98,700

384

0.00389

49.83

99,178

200

0.00202

56.41

35

98,316

528

0.00537

45.02

98,978

289

0.00292

51.52

40

97,788

811

0.00829

40.25

98,689

431

0.00437

46.66

45

96,977

1,291

0.01331

35.56

98,258

659

0.00671

41.86

50

95,686

1,981

0.02070

31.00

97,599

992

0.01016

37.12

55

93,705

3,070

0.03276

26.60

96,607

1,420

0.01470

32.48

60

90,635

4,500

0.04965

22.41

95,187

1,927

0.02024

27.92

65

86,135

6,276

0.07286

18.45

93,260

2,931

0.03143

23.44

70

79,859

9,524

0.11926

14.69

90,329

4,817

0.05333

19.12

75

70,335

13,875

0.19727

11.31

85,512

8,026

0.09386

15.04

80

56,460

17,504

0.31002

8.45

77,486

13,505

0.17429

11.32

85

38,956

18,345

0.47092

6.09

63,981

20,092

0.31403

8.13

90

20,611

13,312

0.64587

4.32

43,889

21,995

0.50115

5.66

95

7,299

5,819

0.79723

3.08

21,894

15,194

0.69398

3.88

100

1,480

1,342

0.90676

2.20

6,700

5,734

0.85582

2.63

105-

138

138

1.00000

1.57

966

966

1.00000

1.76

オリジナルの表では1歳ごとに数字が出ていますが、少し簡略化して5年毎で表しました。男性10万人が生まれたとすると、5歳になるまでに388人が亡くなって、99,612人になる、そのように表を読みます。20歳の男性99,317人が30歳には98,700人になり、その間に617人亡くなる。20歳から29歳までの10年間の死亡率は、0.62%と計算されます。
各年齢における「平均余命」が計算されています。そして、0歳の人の平均余命を「平均寿命」と言います。ですから、50歳の男性が、「平均寿命が79歳だから、あと29年か・・」と言うのは実は間違いでして、50歳の男性の平均余命は31年ですから、81歳という、もっと長生きする前提で老後資金プランを立てなければならないのです。
生命保険会社は、この厚生労働省の生命表も参考にしつつ、自社の死亡データも考慮した生命表を作成し、これに多少の「プレミアム(のりしろ)」をつけて生命保険契約の計算をしています。

かつては、生命表は業界で統一されていました。旧大蔵省が規制・指導していた賜物です。
近年、生命保険会社間の競争が激しくり、金融庁の縛りが少しずつ緩和されてきています。前提とする死亡率を小さめに計算することで安い保険料を設定し、競争力を高めるという動きが起き始めています。
 
ところが、
・ 設定した確率ほど保険事故(死亡、入院、要介護状態など)が起きなかった
・ 設定したほど費用支出がなかった
・ 設定した金利以上で資産運用できた
・ 設定した以上に解約があった
場合には、有配当契約であれば契約者に配当して返しますが、無配当契約であれば保険会社に利益が残ることになります。

日本人の平均寿命が伸びているというのはご存知の通りですが、このことは生命保険会社にとっては、
 死亡率が減少している
ということになります。

そのため、戦後生命保険会社には、想定ほどの死亡がなかったということで毎年利益が残りました。これを死差益と呼びます。(この死差益って、保険業界以外の人にとっては、ドキっとするような響きがありますね。)

定期保険3

生命保険契約の免責について話してきました。

その中で、「地震免責」という話が出てきました。これについては、生命保険と損害保険会社の火災保険で対応の違いがありますので、そのことについて述べようと思います。

私の知る限り、戦後に生命保険で地震免責や災害免責が発動された例はないようです。例えば阪神・淡路大震災において6,434名がお亡くなりになりましたが、死亡保険金、入院保険の給付金は支払われました。

なぜ支払われたかという理由はふたつが考えられます。
・ 日本人は年間100万人が死亡する。6000人というのは、0.6%増えただけなので保険会社として吸収できた。
・ 亡くなった方のうち6割は女性。そして、60代以上のお年寄りが多かった。年寄りほど古くて倒壊しやすい建物に住んでいたと考えられる。お年寄りが加入している生命保険契約は65歳または70歳で高額(3000万円とか5000万円とか)保障期間が終了し、50~300万円程度の保険金になっていることが多い。

損害保険会社が結んでいた火災保険契約にも地震による倒壊、火災は免責条項になっています。こちらは支払われなかったとのことです。その理由は、地震の場合は多くの建物が倒壊(阪神・淡路大震災では、10万5千棟)し、火災(同住家全焼6,148棟)が起きますが、このような多額の損害に損害保険会社は基本的に耐えられません。

そのために、地震保険が存在しています。地震保険があるのだから、地震保険なしの火災保険には地震免責がしっかりと適用されたというわけです。

この地震保険というのは火災保険の保険金の半額を限度とし、保険料もだいたい倍額、すなわち保険料は約4倍というものです。そして、日本国政府が再々保険を受ける形で引き受け保証しています。

政府が保証しているといっても無制限ではなく、5兆5千億円という限度額(平成20年4月現在 損保業界と政府の保証額合計)があります。この限度額が充分なのか不充分なのか私には判断しがたいですが、契約物件に対してそれ以上の被害が発生した場合には割り引かれて保険金が支払われることになります。

この限度額というのは、今まで段階的に増やされてきました。大地震に備えて設定されていますので、今まで支払われた保険金額よりも受け取り保険料の方がずっと多額です。これは地震再保険特別会計という政府のポケットに備蓄されていきます。この備蓄された金額が増えてくるほど限度額が高く設定できるのですね。

現在、地震学者は首都圏の直下型地震が「必ず起こると思ってください」と叫び続けています。それほどに地質学的なひずみエネルギーが蓄積されているようです。それを受けて、地震保険への加入率を上げようという政策がなされていて、平成19年分より所得税計算における「地震保険料控除」が始まりました。

定期保険2

対策その2の「免責事項を設ける」について説明します。

契約当事者(保険会社と保険契約者)との間で色々な取り決めをし、お互いが合意すれば契約を成立させることができます。保険会社は、何十万人、何百万人という多数の人を相手に保険契約を締結しますので、保険会社があらかじめ定めた契約に契約者が理解納得したことを前提にハンコを押してもらうわけです。

契約の条件は、約款という冊子に全部載っています。しかし、それらを全部読み通すことはムリで、ポイントをまとめたパンフレットや設計書、そして契約者にとって不利になりかねない重要な項目をまとめた「重要事項説明書」が用意されています。これに合意・納得したことを確認したとしてハンコを押します。

生命保険契約が続いている間は、生命保険会社は契約者に対して「ある責任」、例えば亡くなったり、入院したり、介護状態になったりしたら生命保険会社はあらかじめ設定した金額を払うというような責任を負います。免責状況というのはこのような責任を生命保険会社が免れるという場合を示しています。

生命保険S社の約款を見ると、確率に影響を与えるような出来事は、「戦争その他の変乱」という書き方になっていて、その場合に保険金を支払いませんよ、とは書いておらず、「削減して支払うことがあります。」という書き方です。「その場合でも責任準備金(≒解約返戻金)を下回ることはありません。」としています。ずいぶんと良心的だなと私は感じます。

同じ約款を見ると、免責条項を設定しているのは、
 死亡保険金
(1) 責任開始日の属する日からその日を含めて3年以内の自殺
(2) 保険契約者または死亡保険金受取人の故意による致死
 高度障害保険金
  保険契約者または被保険者の故意により、被保険者が高度障害状態になったとき
と書かれています。

(2)は、保険金殺人とか保険金詐欺と言われるような事例ですね。このような場合でも保険金が支払われるとなると保険契約が殺人や詐欺をうながすことになりかねない。そんな考え方から免責事項となっています。高度障害保険金の免責事項も同様です。

(1) の自殺免責。保険契約が本来的に自殺をうながす効果を持っていますので、そうならないように免責条項に入れられています。

ところが、生命保険契約は遺族の生活を守るためのものです。だから、あらゆる自殺が完全に免責されてしまうと遺族が悲惨な生活を送ることになりかねません。だから、免責期間を3年間と設定しているのです。3年経てば、仮に自殺目的で保険加入した人でも考え直すだろう、という考え方です。

数年前までは自殺免責期間は1年間だったのですが、年間1万人程度だった自殺者が中高年男性を中心に3万人を超えてしまい、免責期間を3年間に延長することになりました。

鬱病による自殺は、これは保険会社によって対応が分かれるのですが、「契約時点で鬱病でなく、自殺時点までに医師の鬱病の診断がなされた」ことが明確であれば自殺免責機関でも保険金が支払われる場合があるようです。

(「定期保険3」に続く)

定期保険1

生命保険には、たくさん種類があるように思われますが、いくつかの視点で分類することができますので、恐くないです。

まず、お金の出る事由で分けると、
・ 死亡保険
・ 入院保険
・ 介護保険
・ その他
となります。
(年金保険が入っていませんね。これはちょっと特殊なので今は除いておきます。)

保険料というのは基本的には確率で決まってきます。昔、数学で「期待値」というのを勉強したことがあるかと思います。ある年の死亡率が1%で保険金が1000万円だとすれば、1000万円の1%、すなわち10万円が年間保険料となります。

掛け捨ての保険というのは基本的にこれだけのことなのです。
生命保険会社はいろいろな確率のデータを持っています。死亡の確率、入院の確率、介護状態になる確率など。それらに応じて保険料を算出します。

各保険会社には数理部というような部署があり、保険数理人(アクチュアリ)と呼ばれる人がその部署にいます。保険数理人の試験はかなり難しい数学が主です。大学の理学部数学科を卒業したような人たちじゃないと合格ムリって感じです。

どうして難しい数学が必要になるかと言うと、1000万円の1%で10万円。はい保険料10万円よろしく、というわけにはいきません。なぜなら・・
・ 保険会社にも利益が必要
・ 保険契約のためのコストがある
・ 1年間だけの保険だけでなく、5年契約、10年契約、20年契約などあり
・ 長い期間だと途中で死亡率が上昇していく。それでも保険料を一定にするためには。
・ 掛け捨ての保険だけでなく、貯蓄性のある保険もある。金利も考えないと・・

というような要因に対してきちんと考慮して保険料を決めないといけないからです。

しかし、確率論どおりにいきますかねぇ。という疑問が起きますね。

例えば死亡についてはかなり確率論どおりになります。でも、疫病が発生したり、大規模な災害が起きたりする可能性もありますね。

そのために保険会社はふたつの方法で対策しています。
 その1 保険料を高めに設定する
 その2 免責事項を設ける

対策その1は、保険料を高めに設定する方法です。なんて単純な! と怒られそうですが、保険料を高めに設定すると基本的には保険会社にお金が余っていきます。これを契約者に「配当金」という形で分配するのです。そうすると文句はないですよね。

この配当金が出る保険。有配当保険。これって、全労災のような共済とか、歴史の長い保険会社(漢字系の名前の会社が多い)、特に相互会社と呼ばれる保険会社には多いです。この相互会社というのは生命保険会社だけに許された会社形態でして、契約者が株主と似た立場になり配当を受ける権利を持ちます。株式会社の株主と同様、会社の経営にもかかわることが(一応)できます。

外資系を中心とした新しい保険会社(カタカナ系の名前の会社が多い)や、損害保険会社が子会社として設立した生命保険会社(ひらがな系の名前の会社が多い)は、株式会社で無配当保険を中心に販売しています。

(「定期保険2」に続く)

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